パンツ!


たずら電話のベタなやつで、「パンツ何色?」という問いかけがあるけれど、この年になって、これはなかなかに含蓄のある言葉なのではないかと思うようになった。
 たとえば性欲がどうしようもなく溜まっていて、女性に対してなんかしらのアクションを起したい、女性からどうにかして「女性性」を享受したい、あわよくばその女性性をおかずにして自慰へと突き進みたい、そのように考え、ランダムでかけた番号の電話先に、めでたく妙齢の声質の女性が出たとする。このとき、じゃあ逆に、「パンツ何色?」以外のどんな質問が考えられるというのか。
 僕はいま必死に頭を働かせて考えたけれど、なにもいいものが浮かばない。

 「セックスは好きですか?」
 「経験人数は何人ですか?」
 「いちばんの性感帯はどこですか?」
 「初めてのセックスはいつ? どこでですか?」
 「最近セックスをしたのはいつですか?」
 「好きな体位はなんですか?」
 「ちんこについてどう思いますか?」
 「男性のどこにグッと来ますか?」
 「Sですか? Mですか?」
 「何カップですか?」
 「恋人はいるんですか?」

 また僕が特に、女性を巧みに口説くような、合コン的レトリックを持ち合わせていないということもあり、本当にさっぱりだ。最後のほうなんてただのバスガイドに発情する男子校生である。経験豊富で軽妙にいなしてくれるガイドさんならいいが、まだ日が浅くて本当にムッとしたりする子だと、バスの中の空気が悪くなって、そのあと教師からこっぴどく怒られたりする。そのレベルである。
 それらに較べて、「パンツ何色?」の切れ味と来たらどうだ。電話という、ビジュアル抜きのツールであればこそ、「パンツ何色?」の効果は増大する。だって顔も見えない女の裸なんて、結局どれも似たり寄ったりだ。おっぱいがあって、おっぱいの中心には乳首があって、足の付け根の中央には陰毛が生えていて、その奥には女性器がある。同じなのである。細かい差異は、実際に目にしない限り伝わらない。だからそこを追求したところで、電話の向こうにいる女の生々しさはぜんぜん立ち上って来ないのだ。それに対して「パンツ何色?」は、一気に立ち上ってくる。

 「白地に青のギンガムチェック」
 「ピンク地にライトグリーンのドット」
 「レモンイエロー地に薄むらさきの細いストライプ」
 「穿いてません」
 「淡い橙色を基調にした花柄」
 「水色に白の縁レース」
 「グレーにマイメロディのバックプリント」
 「穿いてません」
 「紺色地に白と赤の小花柄」
 「黒」
 「穿いてません」
 「白地に細かい黒ドットで、中央に赤いリボン」
 「穿いてません」
 「穿いてません」

 この調査を通してとても意外だったのは、女の子はけっこう自宅ではパンツを穿かずに過しているという事実である。あとみんなすごくちゃんと答えてくれることだ。