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「S
EVENTEEN」で、これももう定番の特集だが、「男子高校生の頭の中」みたいなことをやっていて、興味深く読んだ。実際の男子高校生が誌面に登場し、アンケートに答えたりしていて、男子高校生たちは当然「モテたい」とか「エロエロ」みたいなことを述べるのだが(もちろん編集者がそういう答えが返ってくるような問いかけをしているわけだが)、しかし僕(彼らよりも約20歳年上)が思うに、どういう経緯にせよ「SEVENTEEN」のそういう特集ページに登場しているという時点で、彼らはもう相当に華やかなハイスクールライフを送っている、ひと握りの部類に入ると思う。
 もう何億回言ったか判らないが、僕は高校が男子校で、だから共学に対する憧憬が、20年経った今もってなお限りなく、ファルマンは「別に共学だからって華やかとは限らんよ」と言うのだが、モテるモテないとか、ヤッたヤラないとか、そういうレベルの話じゃなくて、僕はつい先日このことに気付いて、本当にハッとしたのだけど、僕は15歳半から18歳半という、それは人の人生におけるだいぶキラキラしているはずの3年間において、恋愛というものを本当に一切しなかったのである。好きな、気になる相手というものが、完全にいなかった。3年間。人生のその特別な3年間においてである。いくら華やかじゃなくても、モテなくても、共学でありさえすれば、生物の基本として、濃淡はあるにせよ、誰かしらに恋心を抱くものではないかと思う。なんとなく目で追ってしまうとか、そういうレベルでいい。結ばれなくてもいい。ちょっと気になるだけでいいのだ。それで十分に価値がある。それがなかった。完全になかった。完全にないってすごくないか。別に共学じゃなくても、校外で関係性を持とうと思えば、世の中には女子校というものもあるのだから、いくらでも方法はあったのかもしれない。実際、同級生たちはいつの間にか童貞を捨てていた。僕にはなにもなかった。とても静謐な3年間だった。毎日渋谷を歩いていたが、そんな僕に「SEVENTEEN」の男子高校生特集の声が掛かるはずがないのだった(私服だったし)。だから声が掛かった彼らに対し、彼らがいくら「モテたいっすよ」とか、「頭ん中エロいことで悶々っすよ」などと言っても、ぜんぜん感じ入らない。レベルが違う、と断言できる。
 そんな忸怩たる気持ちで眺めていた男子高校生特集で、童貞とチャラ男のクロストークというコーナーがあり、チャラ男が自分がどれだけヤリまくりか、ということを語っていた。中学生のときに先輩を相手に童貞を喪失したという彼は、高校に入ってからは友達と経験人数を競ってヤリまくるようになったという。また別のチャラ男は、自分は彼女とお互いに浮気OKの仲だ、と語る。彼女から女の子を紹介される、なんてこともあるという。ここらへんでなにか、僕の心の中のとても脆くて美しくて大切な何かが、バッドとかで乱暴に叩き壊されたように感じた。
 とは言え彼らはただ本能のまま、獣のごとく下半身の命令に従って動いているわけではないらしい。彼らには彼らなりの行動原理がある。それは「中学生のときにAVを観ていて、女にも性欲があるならふたりで満たし合えばいいじゃんって気づいた」というものであるという。そして「それってウィンウィンの関係じゃん?」などとのたまう。
 ウィンウィン。このコーナーは縦書きだったためかもしれないが、「win-win」ではなく「ウィンウィン」というのが、経験人数200人弱だというチャラ男高校生の、破壊的なまでの軽薄さをうまく表しているような気がする。それはまるでベルトコンベアの稼働音みたいで、彼らのセックスはなるほどそんなオートメーションの作業のようなものなのかもしれない。バーカバーカ、そんなセックスバーカバーカ! とひたすらに思う36歳の秋である。
 それと、この「win-winの関係」という言葉が出てくるとき、いつも心の中でざわっと、なんとも言えない嫌気がさす感覚があったのだけど、今回のこれでようやくその理由が分かった。なぜ僕は、誰かが「win-winの関係」と言うと、嫌な気持ちになるのか。それは、あなたと、あなたの相手が、双方とも勝っている傍らには、必ず負けている人がいるからだ。これは、あなたと、あなたの相手が、ふたりで勝負をして、ふたりともが勝ち、などという話ではない。そんなふざけたおとぎ話があるものか。ただあなたとあなたの相手がタッグを組んで、あなたたち以外の誰かを負かしただけの話ではないか。時節で言うならば、関西電力の収賄事件なんかがまさにそう。関西電力の幹部と、高浜町の助役は、そりゃあwin-winの関係であったろう。しかし彼らがそうして得た富の裏には、本当に大勢の人のlooseがある。誰もが勝つなんてことがあるはずないのだ。それなのに、これはなんの瑕疵もない理想の形です、みたいな顔で「win-winの関係」と口にするから頂けない。チャラ男がひとりで200人弱の女を抱いたらば、200人弱の男のセックス機会を奪ったとも言える。果たしてそれがwinだろうか。winだわな。大winだ。大winnerだ。大winnerということは、それは要するにフランクフルトだ。200人弱の女とセックスをしたちんこは、どういう作用かは知らないが、大きくなりそうな気がして、そう思うとますますへこたれる、36歳の初秋。