ブログクロス連載小説「俺と涼花」第6回


きた瞬間にさらさらと手のひらからこぼれ落ちる砂のように、露と消えた妹によるモーニングキャンディの幻想は、しかし瓢箪製のペニスケースが起した奇跡の性感によって、ブルーボールの切なさだけを俺の性器に残して弾けた。
 倒れる前の、演奏という名の手コキから、幻のモーニングキャンディまで、妹は短時間であまりにも俺のペニスを弄び過ぎた。勃起をしつこく長引かせると起るブルーボールは、昇ったり降りたりを繰り返して迷子になった精子たちの叫びであり、金玉のあたりがじんわりとアンニュイになるさまは、たしかにブルーボールという他なかった。哀し気に赤黒ずむ、俺のツーブルーボール(ズ)。
「んちゅっ……、ちゅっ、ちゅばっ、んっ、れる……、ちゅっ」
 プリン本体を食べきったのち、皿にへばりついたホイップクリームをせっせとスプーンで掬い、お掃除フェラよろしく丁寧に舐め取っている妹の姿が、さらに股間の疼痛を刺激した。そんなにホイップクリームが好きなのならば、俺のこの絞り袋の中で蠢くものたちも全てしごき出して、気の済むまで食み尽くせばいいではないかと思った。ものの本によるとそれは「苦い」らしいので、デザートのあとに飲むエスプレッソのように、いい口直しになるのではないかと思った。
「……ぷふぁあっ。あー、おいしかった。ごちそうさまでした」
 しかし妹はそんな俺の願望などお構いなしに、手を合わせると早々に皿を持って流しへと歩き出してしまった。ソファーに横臥する俺の目線の高さを、妹の脚の付け根が移動した。もちろんパイル地のホットパンツ姿である。サーモンピンクのホットパンツから伸びる太腿はどこまでも白く、気を抜くと魂を吸い取られそうになる。深い部分までさらけ出されたデリケートゾーンに目を凝らせば、ゆとりのある裾の間から、ショーツが覗けるのはもちろんのこと、そのショーツさえもがなにかのはずみで少しでもずれたらば、さらにその中の世界までもが容易く開けてしまいそうだ。
 そこまで考えて、はたと気がついた。そうか、だからあえてサーモンピンクのホットパンツを選んで、妹は穿いているのかもしれない。木を隠すなら森の中。サーモンピンクの中のサーモンピンクが多少見えてしまっても、サーモンピンクの外のサーモンピンクのおかげで、そう目立たない。妹はたぶん別にサーモンピンクが好きなわけではない。ただそれが自分の陰唇の色に酷似していて、保護色になるから穿いているのだ。つまりサーモンピンクのホットパンツは、希釈した妹の陰唇そのものであるといえた。
 だとすれば、俺は陰嚢こそ露出しているが、ペニスケースを纏っている。これは一部の部族にとっては正装であり、その一部の部族にとって陰嚢や肛門の問題がどう解決されているのかは知る由もないけれど、それでもとにかく正装なのらしい。それに対して妹は、希釈された陰唇を臆面もなくまろび出しているではないか。ありえない。もしかして妹は痴女なのではないか。せめて葉っぱでも着ければいいのに、隠す素振りなど一切なく、妹はサーモンピンクを俺の眼前に晒し続けているではないか。
「なんてこったよ……」
 実妹が痴女。
 衝撃の新事実に、ブルーボールの症状はますます強まった。しかしグラビアアイドルが男子に勃起されると喜ぶように、痴女である妹にとって、俺の腐肉の懊悩はむしろ望んだ展開であるはずだ。俺を勃起させるために、妹は女性器を曝け出し続けているわけだろう。いや、あるいは俺なんか関係なく、ただ自己満足のために女性器を曝け出し続けている……? しかしもしそうだとしたら甚だ迷惑な話だ。そのせいで男子が勃起してしまうことは、レイプの変型版と言っていい。
 そうだ、俺はいま、痴女妹にレイプされているのだ。もちろん直接に陰茎を擦られたり陰嚢を揉まれているわけではない。でも女の子は男子には見えないハナハナの実の能力によって、男子の陰茎を擦ったり陰嚢を揉んだりするのだと思う。だから俺はさっきからこんなにも股間が切ない。上京してしまった先輩にとうとう渡せなかったバージンくらい切ない。ああ、先輩はウチのことなんかすぐに忘れて、東京の女の人とたくさんえっちいことするんやろな……。そんな切なさで胸と股間がずきずき痛む。
 流しにたどり着いた妹は、そのまま蛇口をひねり、使った皿を洗いはじめた。俺はソファーの背もたれに顎を乗せ、その後ろ姿を眺めた。もはや寸足らずと言ってもいいホットパンツから、太ももと尻の合いの子のような部分がはみ出ている。陶器のように艶やかで、照明を反射するかのように張り詰めている。それは太ももの曲線とは明らかに違う。筋肉や骨とは無関係な、いい意味での肉と、いい意味での脂肪の、めっちゃいい膨らみ方をしている。じゃああれは尻だ。合いの子じゃなかった。尻だ。尻だ。尻なんだ。妹は尻を出して洗い物をしている。これがホントのMagicaだな、と俺は思い、そろそろと自らの手を股間へと這わした。

つづく